世界最大の産油国・米国、なぜエネルギー価格を抑えられないのか【パク・シンヨンのウォール街アナトミー】
概要
- ブレント原油が1バレル100ドル前後を維持し、米国のガソリンとディーゼル価格がそれぞれ40%、80%近く上昇したと伝えた。
- 米国は精製能力不足、世界的なディーゼル供給不足、低い在庫を背景に、ディーゼル価格が小さな需給変化にも大きく振れやすいと指摘した。
- ホワイトハウスによるディーゼル輸出禁止の検討は、短期的には国内価格を押し下げうるものの、製油会社の生産縮小や国際ディーゼル価格の上昇を招き、効果が限られる可能性があると伝えた。
期間別予測トレンドレポート



足元で原油高が続き、米国でも再びインフレ圧力が強まっている。米国債利回りも、こうした物価への警戒を映して高止まりしている。
だが米国はすでに世界最大の産油国だ。世界で最も多く原油を生産しながら、なぜ自国のガソリンやディーゼルの価格を思うように下げられないのか。
9月24日の「ウォール街アナトミー」では、米国が世界最大の産油国でありながら国内エネルギー価格のコントロールが難しい理由を点検する。
1. 日量1358万バレル
米国は2018年から世界最大の産油国の地位を維持している。
2025年の米国の原油・コンデンセート生産量は日量平均1358万バレルで、世界全体の約15.8%を占めた。
2位のロシアは日量1016万バレル、3位のサウジアラビアは973万バレルだ。
なかでもテキサス州だけで日量約580万バレルを生産する。米国全体の43%に当たる。テキサス州を1つの国とみなせば、世界4位級の産油国になる。
2. シェール革命が軽質油の増産をけん引
米国の原油生産増加の中心にはシェール革命がある。
シェールは緻密な岩石層を指す。この岩石層に高圧の水と砂を注入して亀裂をつくり、その隙間から原油と天然ガスを取り出す手法が水圧破砕だ。
こうして生産される原油はタイトオイル、一般にはシェールオイルと呼ばれる。あわせて産出される天然ガスがシェールガスである。
米国のシェールオイルの特徴は、軽質で硫黄分が少ないことにある。軽質油は比重が軽く、流動性の高い原油を指す。WTIや米国のシェールオイルが代表例だ。
これに対し、カナダのオイルサンドやベネズエラ産原油は、重く粘度の高い重質油に近い。
中東産原油はその中間に位置するが、重質油寄りに分類されることが多い。サウジアラビアのアラブライトのように、硫黄含有量が比較的高い原油も代表的だ。
3. 米製油所は重質油向けに特化
問題は、米国の製油所がシェール由来の軽質油を前提に造られたわけではない点にある。
米国の大規模製油所の大半は、シェール革命以前に建設された。当時の米国は重質油を輸入し、そこからガソリンやディーゼル、航空燃料をできるだけ多く取り出す構造を築いた。
つまり、重質油の分解と加工に強みを持つ設備だ。
一方、米国内で新たに増産されているシェールオイルは軽質油である。このため米国は、自国で生産した軽質油を輸出する一方、製油所により適した重質油を輸入する構図になっている。
米国は日量約320万〜400万バレルの原油を輸出する一方で、日量約620万バレルの原油を輸入している。このうち60%以上は重質油で、カナダ産の比率が約63%を占める。
4. 製油所を改修すればよいのか
では、製油所をシェール由来の軽質油に合わせて改修すればよいのではないか、という疑問が出てくる。
理論上は可能だ。ただ、費用は数十億ドルにのぼり、完成まで数年かかる。
米国では1970年代以降、新たな大規模製油所は事実上建設されていない。既存設備を増強する場合でも、複雑な許認可手続きと環境規制が伴う。
電気自動車への移行が進むなか、製油会社が数十年単位を見据えた大規模な化石燃料設備投資に積極的に踏み切るのも簡単ではない。
そのため米国市場は、製油所の改修よりも輸出入を通じた原油需給の調整に頼っている。
5. 米国は石油製品の最大輸出国
米国は、重質油を処理してガソリンやディーゼル、航空燃料を生産できる大規模な複合製油所を持つ。この強みを背景に、精製石油製品の最大輸出国となった。
とくにLPGでは、世界の輸出の4割強を米国が担う。
ディーゼルでも米国は世界最大級の輸出国だ。国際的なディーゼル取引量の約15〜20%を供給しているとされる。
ロシアの製油施設の稼働障害と制裁が続くなか、米国産ディーゼルの世界市場での重要性は一段と高まった。
6. 国際価格に連動する構造
石油は世界で取引される商品である。
米国内の価格が海外より低ければ、製油会社やトレーダーはより高値で売れる海外市場に供給を振り向ける。これが裁定取引だ。
輸出が増えれば、米国内に残る量は減る。国内価格も再び国際価格の水準へ押し上げられる。
逆に、国内価格が輸入価格より大幅に低くなれば、輸入量が減って供給不足を招くおそれがある。
結局、米国の石油製品価格は、国際価格に輸送費と流通費を上乗せした水準から大きく離れにくい。
原油も同じだ。米国産原油の指標であるWTIは、世界の指標油種であるブレント原油と連動して動く。米国で生産し米国内で精製したとしても、輸出入の道が開かれている限り、価格は世界市場と切り離せない。
7. 国際原油価格はなぜ上がるのか
足元のブレント原油は1バレル100ドル(約1万5900円)前後の高水準を保っている。
直接の要因は戦争と地政学リスクだ。
最大の変数はイランを巡る戦争と、ホルムズ海峡封鎖のリスクである。世界の石油消費量の約20%がホルムズ海峡を通過する。
ウクライナによるロシアの製油施設への攻撃に加え、中東の製油施設への攻撃も続き、精製能力の混乱は大きくなった。
OPECプラスが減産緩和に動いたとしても、サウジアラビアとロシアの実際の生産は、戦争や制裁、設備障害の影響を受けうる。在庫も十分ではない。
供給が逼迫するなかで地政学リスクが重なり、国際原油価格は高止まりしている。米国の原油価格や石油製品価格も上がらざるを得ない構造だ。
9月24日時点の米国のガソリン価格は1ガロン4.48ドル(約711円)、ディーゼル価格は6.51ドル(約1030円)だった。1年前と比べると、ガソリン価格は40%以上、ディーゼル価格は80%近く上昇した。
8. 世界的なディーゼル不足
ほかの石油製品価格も上昇しているが、ディーゼルの値上がりがとりわけ大きいのには理由がある。
第1に、世界的な製油施設のトラブルだ。
中東とロシアの製油施設の被害により、世界の精製能力の約10%が停止したと推定されている。原油があっても、それをディーゼルや航空燃料、ガソリンに変える製油設備が不足しているということだ。
第2に、米国内の精製能力も十分ではない。
新型コロナウイルス禍で需要が急減し、一部の製油所が閉鎖された。その後も新たな製油所は事実上建設されていない。既存製油所が最大限稼働しても、全体の生産能力そのものを大きく引き上げにくい構造である。
中東とロシアの精製障害で世界市場のディーゼル不足が深刻化し、米国産ディーゼルは南米と欧州へ急速に輸出されている。
米国の製油所稼働率はすでに約97%まで上昇した。追加生産を大幅に増やす余地はほとんどないことを意味する。
輸出が活発なだけに、在庫の低下は避けられない。米国のディーゼルと暖房油を合わせた留出油在庫は、1982年の統計開始以降で最低水準まで落ち込んだ。
先物市場の構造も在庫積み増しを難しくしている。ディーゼル先物価格が現物を下回るバックワーデーションの局面では、企業は高値で買って在庫として保有しても、後により安値で売る可能性がある。民間部門が在庫を積み上げる動機は弱まる。
これに秋の収穫期に伴う農機需要や貨物輸送需要、冬場の暖房油需要も重なっている。
低在庫、限られた精製能力、高い輸出需要が同時に重なり、ディーゼル価格は小さな需給変化にも大きく振れやすい。
9. ディーゼルは経済全体への影響が大きい
米国でも消費量でみれば、ガソリンの比重はディーゼルを大きく上回る。
米エネルギー情報局(EIA)ベースでは、2025年の米国の1日当たり石油消費量は約2030万バレルだ。
このうちガソリン消費は日量約890万バレルで、全体の44%を占める。
一方、ディーゼルと暖房油を合わせた留出油消費は日量約390万バレルで、全体の約19%だ。ガソリン消費の半分にも満たない。
ただ、物価への影響はディーゼルの方がはるかに直接的である。
ディーゼル価格が上がれば、まずトラックと物流会社のコストが増える。その後、燃油サーチャージや運賃の引き上げを通じて、製造業者や流通業者にコストが転嫁される。
契約更新や在庫消化が進めば、食料品や日用品の価格にも反映される。消費者が体感する物価には、おおむね1〜3カ月の時間差が生じうる。
ガソリンは家計の直接支出に影響する。これに対しディーゼルは、物流費を通じて経済全体の価格に波及する燃料である。
10. ディーゼル輸出を禁じれば解決するのか
ホワイトハウスはディーゼル輸出の禁止を検討している。
期待される効果は単純だ。輸出を止めれば、米国内に残るディーゼルの量が増え、国内価格を下げられるという理屈である。
11月の中間選挙を前に、農家やトラック運転手の燃料負担を和らげたいという政治的な狙いもある。
もっとも、反論も少なくない。
まず、製油会社が生産を減らす可能性がある。
原油を精製しても、得られるのはディーゼルだけではない。ガソリンやジェット燃料、重油など複数の製品が一定の比率で同時に生産される。
輸出が止まり、売り先のないディーゼルがタンクに積み上がれば、製油会社は原油の投入量そのものを減らさざるを得ない。そうなれば、ディーゼルだけでなくガソリンや航空燃料の生産も同時に減る。
クリス・ライト米エネルギー長官も、輸出を止めれば製油会社が生産を減らし、ガソリン価格が即座に上がる可能性があると警告した。
余ったディーゼルを米国内で必要な地域に回すにも限界がある。
米国のディーゼル輸出の大部分はメキシコ湾岸の製油所から出る。ただ、パイプライン容量には限界があり、米国内港湾間の海上輸送にはジョーンズ法の規制がかかる。
東海岸のように製油施設が不足する地域へ、量を機動的に振り向けにくい理由である。
世界価格の上昇が、結局は米国に跳ね返る可能性もある。
米国は海上取引されるディーゼルの約20%、日量約150万バレルを供給する世界最大の供給源である。欧州はロシア産ディーゼルの輸入を止めた後、米国産供給への依存を強めてきた。
米国が輸出を止めれば、海外のディーゼル価格はまず上昇する公算が大きい。
米国内では短期的に価格が下がる可能性がある。ただ、東海岸のように海外供給に依存する地域は、国際価格上昇の影響を免れない。
結局、米国のディーゼル価格も世界価格から完全に切り離すことは難しい。
ニューヨーク=パク・シンヨン特派員 nyusos@hankyung.com
Korea Economic Daily
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