概要
- JPモルガンは、原油価格がインフレと金利を左右する第1の変数だとし、最大のリスクは企業利益の持続性と中東の地政学リスクだと指摘した。
- 今週の米中首脳会談で中国による対イラン圧力の合意がまとまれば、原油価格の地政学的プレミアムが解消し、金利低下と株価反発のシナリオが開けるとした。
- 逆にTACOと中国の仲介がともに失敗すれば、原油価格100ドル超が定着し、インフレと金利上昇が長引いて、株式市場のバリュエーションが圧迫されると伝えた。
期間別予測トレンドレポート


原油100ドル・金利5%でも
「戦争の出口戦略はなお不透明」
JPモルガン「基本シナリオはない」
ホルムズ、紅海、サウジ送油管に
ロシアの精製能力不足まで
9月24日の米中首脳会談が分岐点

「もう正直、分からない」
JPモルガンは原油見通しの基本シナリオを事実上撤回した。原油高と金利上昇という経済のマジノ線がすでに崩れたにもかかわらず、イラン戦争の出口はなお見えないためだ。
米国と日本の中央銀行が1989年以来初めてそろって利上げして以降、世界の金融市場のかじ取りは再び原油価格に移った。原油が下方安定すればインフレ懸念は和らぎ、金利を押し上げる要因の少なくとも一つは消せるからだ。
だが市場の期待に反して、紛争は一段と複雑になった。ホルムズ海峡の正常化は見通せない。サウジアラビアの迂回送油管の閉鎖や、イエメンのフーシ派参戦に伴う紅海の迂回航路の混乱も、原油見通しを難しくしている。JPモルガンが9月17日(米東部時間)、「イラン戦争が始まって以降、初めて基本シナリオがなくなった。最終局面をどうモデル化すべきか、正直分からない」と明かした背景だ。
高金利局面でも株式相場が比較的底堅く推移するいま、最大のリスクは原油にある。この原油を短期的に下方安定させる切り札として、市場が最後の期待をかける相手はただ一つ、中国だ。
100ドルも5%も歯止めにならず 崩れたレッドライン

イラン戦争の開戦当初、ウォール街はそれぞれのシナリオを示していた。大半の前提はTACO、すなわち「トランプ氏は今回も怖じ気づいて引き下がる(Trump Always Chickens Out)」というものだった。
JPモルガンでグローバル商品戦略を統括するナターシャ・カネバ氏は、当初は米政権が容認しない経済的なマジノ線があると想定していたと語った。国際原油価格が1バレル100ドル、米ガソリン価格が1ガロン5ドル、総合インフレ率が4%、米10年国債利回りが5%に近づけば、トランプ政権は結局合意に向かうとみていたという。実際、この水準に近づくたびにトランプ大統領は何度か「TACO」に動き、4月と6月には2度の停戦も実現した。
ただ、いずれも長続きしなかった。6カ月が過ぎた今も原油価格は100ドルを上回り、10年債利回りも5%を突破した。足元の米ガソリン価格は1ガロン4.37ドル(約690円)、ディーゼル価格は6.45ドル(約1010円)と過去最高水準にある。カネバ氏は、それでも出口戦略はかえって曖昧になったと指摘し、「市場は極度に神経質な状態だ」と分析した。
JPモルガンが現在の需給条件で算出した9月のブレント原油の適正価格は1バレル90ドルである。だが、9月18日時点のブレント先物は103.37ドル(約1万6200円)だった。JPモルガンは供給が日量100万バレル減るごとに、原油価格はおよそ4ドル上昇すると試算する。現在上乗せされている13ドル前後のプレミアムは、市場がすでに支障をきたしている日量1000万バレルに加え、さらに300万〜400万バレルが失われるリスクまで織り込んでいることを意味する。

それでも原油価格が最悪のシナリオ、つまり1バレル120ドル超まで急騰していないのは、在庫と需要減少があるためだ。JPモルガンによると、世界の原油・石油製品在庫の減少分は当初見込んだ16億バレルの3分の1にあたる5億5500万バレルだった。世界の石油需要も前年より日量440万バレル減った。
ただ、これは時間稼ぎにすぎない。供給障害が長引くほど在庫は減る。価格を安定させる唯一の方法は、より大きな需要破壊だけになる。供給が早期に正常化しなければ、原油価格が景気減速を通じて自ら需要を押し下げて初めて均衡を取り戻す段階に入ることになる。
供給正常化の兆しはなお乏しい。最近はイエメンのフーシ派が積極的に参戦し、戦争は拡大の岐路に立った。ホルムズ海峡に加え、もう一つの重要な海上輸送路である紅海のバブ・エル・マンデブ海峡も危険にさらされている。
フーシ派は9月19日(現地時間)にも、サウジアラビアの首都リヤドとヤンブーのアラムコ施設を追加攻撃したと主張した。原油輸出の主要な迂回路である東西横断パイプラインがすでに攻撃を受けたサウジアラムコは、少なくとも欧州の製油会社2社に対し、10月の原油供給ができないと通知したもようだ。欧州の精製会社が米国産など代替原油の確保に動けば、WTI価格にも一段の上昇圧力がかかる。
JPモルガンは、なお原油価格の一段高を抑えるだけの十分な緩衝余力があるとみる一方、中東の原油輸送量が現状水準にとどまれば、見通しを引き上げざるを得ないとした。足元の第4四半期と12月のブレント原油価格見通しは、それぞれ1バレル80ドル、78ドルである。だが、今のようなこう着状態が続けば、それぞれ87ドル、86ドルに上振れする可能性があるという。
TACOも頼れない 最後の希望は中国
結局、原油市場はホルムズ海峡、紅海とバブ・エル・マンデブ海峡、サウジの東西パイプラインという3つの輸送ルートが同時に不安定化した状態にある。どこか1カ所が復旧しても、別の場所で問題が起きかねない。より深刻なのは、原油と精製品の価格差である「クラックスプレッド」が過去最大水準に広がり、インフレ懸念を一段とあおっている点だ。原油だけでなく精製品の移動も深刻に制限されているうえ、ウクライナのドローン攻撃でロシア国内の精製能力が低下した影響も出ている。
解消も予測も難しい変数が同時多発的に絡むなか、市場が最後の希望としてみるのは「中国を動員した外交的突破口」である。
イラン側も交渉の余地を完全に閉ざしたわけではない。イラン最高国家安全保障会議のモフセン・レザイ書記は9月19日、仲介国カタールを通じて終戦条件を米国に伝え、トランプ大統領の返答を待っていると明らかにした。アルジャジーラによると、イランが示した条件は、全戦線での軍事行動停止、凍結されたイラン資産の解除、海上封鎖の終了などで、従来の停戦合意時に掲げた条件と似通っている。
もっとも、米国にとって受け入れやすい条件とは言い難い。イランは同時に、米空母の近くで対艦ミサイルを試射したとして軍事対応能力を誇示した。トランプ政権がイランの終戦条件をそのまま受け入れれば、先に引いたように映る可能性があるためだ。CNNが9月20日に報じたところでは、トランプ大統領はイエメンへの軍事攻撃を検討したという。オマーンを含む中東地域の米大使館は安全保障警報を発令した状態にある。
こうした強硬対立が続くなか、次の分岐点は9月24日に米ワシントンDCで開くトランプ大統領と習近平国家主席の米中首脳会談である。JPモルガンは、この会談で外交的突破口が生まれなければ、「原油供給の支障は一時的」との前提を維持するのはますます難しくなるとみている。
中国はイラン産原油の最大の購入国であり、イランに実質的な影響力を及ぼせる数少ない国でもある。最近では、サウジアラビアの要請を受けた中国が、フーシ派の軍事行動を自制させるようイランに非公開で求めたと伝えられている。ただ、中国も「米国のために」イランを圧迫する構図は望まない。このため、米国の対イラン要求を受け入れる代わりに、関税やレアアース、AI規制など別の交渉分野で譲歩を求める可能性がある。
結局、今週の市場は米中会談で中国がイランとフーシ派に圧力をかける具体的な役割を担うのか、どのような見返りを得るのかに最も神経をとがらせることになりそうだ。
原油→金利→株式の連鎖
中東戦争と原油価格の行方が世界の金融市場の最大関心事になったのは、これがインフレと金利の方向を左右する第1の変数になったからだ。主要国の中央銀行による政策金利の引き上げ、各国政府の巨額債務と国債発行、AI投資競争に傾く企業の社債発行、AI主導の世界経済成長など、市場金利を押し上げる基調要因は多い。
それでも、足元で金利が最も敏感に反応する変数はやはり原油である。高原油が長引けば、輸送費と生産費を通じて物価を再び押し上げる。すでに5%を超えた米国債利回りにさらなる上昇圧力をかけ、世界の金利と株式相場に影響を及ぼしかねない。2022年の弱気相場と今との大きな違いの一つは、中長期の期待インフレが安定している点にある。だが、原油高が抑え込めなければ、この期待インフレが逸脱し、中央銀行は急激な利上げ以外の選択肢を失う可能性がある。(※関連記事〈高金利でも株式相場が持ちこたえる理由…22年の弱気相場と異なる5つの点〉)

そうしたなかでJPモルガンは、「企業利益の成長という『いかり』が堅固な現在の局面では、金利上昇が株式相場を大きく揺さぶることはない」としつつ、「最大のリスクは企業利益の持続性と中東の地政学リスクだ」と指摘した。
仮に今週の米中会談で、中国が対イラン圧力に同意する合意がまとまれば、原油価格に上乗せされた地政学プレミアムは急速に剥落する可能性がある。その場合、金利低下と株価反発が同時に進む最も前向きなシナリオが開ける。逆に、トランプ氏の「TACO」が機能せず、中国の仲介も失敗すれば、原油価格は100ドル超から下がりにくい。そうなればインフレと金利上昇が定着し、株式相場のバリュエーションには圧力がかかり続ける。
JPモルガンでさえ戦争終結の時点と原油価格の経路を見通す基本シナリオを放棄した市場で、投資家はもはや原油がどこまで上がるかではなく、いつ下がるかを見極めようとしている。
ビン・ナンセ記者 binthere@hankyung.com
Korea Economic Daily
hankyung@bloomingbit.ioThe Korea Economic Daily Global is a digital media where latest news on Korean companies, industries, and financial markets.