サムスンの異例のAI投資 ユクリッドに「HBMの先」を探る[カン・ギョンジュのテックX]
概要
- サムスン電子は、オランダのAI半導体スタートアップユクリッドの2億ユーロ超のシリーズA投資を共同主導し、AI推論とメモリー中心の構造に賭けたと明らかにした。
- ユクリッドは、プロセッサー・メモリー共同設計、1TB規模のUBM、最大8000TB/sのメモリー帯域幅を特徴とするAI推論向け半導体クラフトワークを開発中だと説明した。
- サムスン電子は、HBMを超えてAI演算とメモリー構造の統合を目指し、ユクリッドをはじめAI半導体、GPU設計IP、AIアクセラレーター企業への投資を拡大していると明らかにした。
期間別予測トレンドレポート


<テックX121>
サムスン電子がユクリッドに投資した本当の理由
GPUだけでは不十分、推論性能はメモリーが左右
HBMを含む演算・メモリー・パッケージング統合を模索

サムスン電子がオランダのAI半導体スタートアップ、ユクリッドに出資し、業界の関心を集めている。AI半導体の競争軸が、GPUの演算性能そのものから、演算プロセッサーとメモリーをどれだけ効率よく結びつけるかへ移る可能性をにらんだ投資といえる。AI演算に続いて推論の重要性が高まるなか、メモリー帯域幅やデータ移動、電力効率の主導権確保を狙う戦略とみられる。
オランダのAIチップ新興ユクリッドとは
9月19日、半導体業界によると、サムスン電子はこのほど、ユクリッドが調達した2億ユーロ超のシリーズAラウンドに共同主幹投資家として参加した。サマーシット・キャピタル・パートナーズ、スケールアップ・ヨーロッパ・ファンド、イノベーション・インダストリーズも共同で投資を主導した。サムスン電子からは、全額出資のベンチャーキャピタルファンドであるサムスン・カタリスト・ファンドが出資した。
ユクリッドは2024年、オランダ・アイントホーフェンのハイテクキャンパスで、ベルナルド・カストルップ氏とアトゥル・シンハ氏が共同創業した半導体スタートアップだ。ASMLの前最高経営責任者(CEO)、ピーター・ベニンク氏は今回の資金調達にあわせ、ユクリッドの取締役会議長に就いた。
社名のユクリッドは、古代ギリシャの数学者エウクレイデスに由来する。既存製品の延長線上でAI半導体をつくるのではなく、基本原理から設計し直すとの意味を込めた。
同社は、汎用GPUを大規模に接続する従来のAIデータセンターの構造から離れ、演算プロセッサーとメモリーを当初から一体で設計する「プロセッサー・メモリー共同設計」を中核戦略に掲げる。公表したロードマップでは、AI推論向け半導体「クラフトワーク」とデータセンターシステムを組み合わせ、AIモデルの稼働に必要な演算、メモリー、システムの効率を同時に高めることを目標に据えた。
クラフトワークは、AIが学習した内容を実際のサービスで高速処理する推論向けの特定用途向け集積回路(ASIC)ベースのシステムだ。複数の演算プロセッサーが同時に計算する設計を採り、大規模AIモデルを効率よく処理できるのが特徴である。1つの強力な計算装置にすべてを任せるのではなく、複数の計算装置が仕事を分担して並列処理する方式だ。
従来のデータセンターが複数のGPUを接続してAIを動かすのに対し、ユクリッドは別の道を選んだ。AIの計算に使う演算装置と、データを保存して読み出すメモリーを、最初から一組のように設計する手法である。演算装置とメモリーの距離が縮まれば、必要なデータをやり取りする時間は短くなる。その分、AIはより高速に動作し、消費電力も抑えられるとユクリッドは説明している。

HBM超えの演算・メモリー統合、AI推論市場を照準
サムスン電子がユクリッドに出資した最大の理由は、「HBMをつくる会社」から「AI演算とメモリー構造を一緒に設計する会社」へと領域を広げる布石だからだ。
これまでのAI半導体競争は、GPUの演算性能をどこまで高められるかに力点があった。だが推論市場が拡大するほど、データをメモリーから演算装置へどれだけ速く供給できるか、その過程でどこまで電力を抑えられるかが重要な競争要素になる。ユクリッドは、プロセッサーとメモリーの同時設計でこの課題の解決を目指す。
サムスン電子が注目するのは、クラフトワークのメモリー設計だ。AIが答えを出すには、計算だけでなく膨大なデータをメモリーから高速に取り出す必要がある。演算能力の高いチップでも、必要なデータを適時に供給できなければ性能を十分に発揮しにくい。ユクリッドはこの問題を解決するため、1テラバイト(TB)規模の超高帯域幅メモリー(UBM)をチップの演算構造と一体で設計した。
ユクリッドが公表した設計目標によると、クラフトワークは最大で毎秒8000テラバイト(TB/s)のメモリー帯域幅を実現するよう設計された。メモリー帯域幅は、メモリーからデータをどれだけ速く取り込めるかを示す「データの通り道の太さ」にあたる。帯域幅が大きいほど、一度にやり取りできるデータ量は増える。ユクリッドは演算装置の速度だけでなく、この通り道そのものを広げることに重点を置いた。
ユクリッドが狙うAI推論市場は、サムスン電子にとって新たな機会になると社内ではみている。AI学習市場では、エヌビディアのGPUの演算性能とソフトウエア(SW)生態系が強力な参入障壁として機能してきたが、推論市場ではAIモデルや利用環境に応じて必要な演算構造が変わる。
同じAIモデルでも、多数の利用者の質問にリアルタイムで答える局面では、演算量だけでなく、メモリー容量や帯域幅、データ移動に伴う電力消費がコストを左右する。ユクリッドがGPUとは異なる方式でこの問題を解こうとしている理由だ。
サムスン電子は最近、ユクリッドのほかにも、AI半導体の演算、設計、データ処理技術を持つ企業への投資を広げている。7月には、GPU設計の知的財産(IP)を手がけるオックスミックの3500万ドル(約55億円)規模のシリーズA投資を共同主導した。3月には、AIベースの半導体設計自動化企業ノーマル・コンピューティングの5000万ドル(約79億円)規模の戦略投資ラウンドを主導した。
サムスン・カタリスト・ファンドの投資先には、AI推論半導体企業グロック、チップレット接続技術企業エリアン、低消費電力AIアクセラレーターを開発するアクセレラAIなども含まれる。最近ではミストラルAIへの投資も主導し、半導体ハードウエアからAIモデルへと対象を広げた。
ユクリッド「サムスンは資金以上の助け」
ユクリッドは今回の調達資金でエンジニアリング組織を拡充し、半導体とシステムの開発を前倒しする計画だ。2028年に実物の半導体システムを投入し、2030年までに数千社を顧客として確保する目標を掲げる。
ベルナルド・カストルップCEOは9月14日に米CNBCとのインタビューで、「サムスンは資金面にとどまらず、さまざまな面で我々を支援できる」と語った。さらに「世界最大級のメモリーメーカーの一つとして、エンジニアリングとシステムに対する理解、サプライチェーン、広範なネットワークを備えている」と強調した。
サムスン電子のデデ・ゴールドシュミット副社長兼サムスン半導体イノベーションセンター長は、ユクリッドが9月15日に公表した投資発表文で、「AIの次の段階は、モデル革新だけでなく、インフラの効率性と拡張性によって決まる」と述べた。そのうえで「ユクリッドはAIデータセンターの制約を解決する差別化されたビジョンを持つ」と評価した。

オランダ・アイントホーフェンのハイテクキャンパスの全景。欧州を代表する先端技術クラスターで、AI半導体スタートアップのユクリッドが本社を置く。ユクリッド本社はこのキャンパスのHigh Tech Campus 84にある。/写真:アイントホーフェン・ハイテクキャンパス
カン・ギョンジュ 韓経ドットコム(Hankyung.com)記者 qurasoha@hankyung.com
Korea Economic Daily
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