エヌビディアとオープンAIが激突 巨頭対決で半導体株に追い風【ビン・ナンセの徹底マーケット】
概要
- エヌビディアのハギングフェイス買収とオープンAIのGPT-6アストラ公開で、AIの発展と普及が加速し、コンピュートとメモリー需要が増えると伝えた。
- ゴールドマン・サックスは、知能の飛躍的な進歩がトークン需要を刺激し、トークン価格下落への懸念を弱めたと分析した。
- 今回の反発は、AI単価の下落=ハードウエア需要鈍化ではないことと、金利上昇局面ではキャッシュフローの厚いAIハードウエア企業への選好が強まる可能性があることを示した。
期間別予測トレンドレポート


「オープン生態系」掌握に動くエヌビディア
ハギングフェイスに129億3030万ドルを投じた日
オープンAI、GPT-6「アストラ」公開
「AGI時代へようこそ」
トークン価格論争を覆した一日
オープンでもクローズドでも
コンピュートとメモリー需要は増える
人工知能(AI)業界の二大巨頭が同時に勝負手を打った。エヌビディアとオープンAIだ。
9月3日、エヌビディアは世界最大のオープンソースAIプラットフォーム、ハギングフェイスを129億3030万ドル(約2兆200億円)で買収すると正式発表した。昨年末に推論特化型AIチップ設計会社のグロック(Groq)を200億ドル(約3兆1230億円)で吸収して以来、2番目に大きい賭けとなる。

数時間後、オープンAIは多くの市場関係者が待っていた最新フラッグシップモデル、GPT-6「アストラ(Astra)」を限定公開した。AIが自ら新たな環境を学習する能力を示すARC-AGI-3は前作の7.8%から99.9%へと大幅に改善した。コーディング作業で使うトークン量は、アンソロピックの最上位モデルの20%にとどまるという。グレッグ・ブロックマン社長は「AGI(汎用人工知能)の時代へようこそ」と語った。
オープン型AIと最先端のクローズド型AIの両陣営で大きな前進があったわけだ。最近の張り詰めた空気を破るように株式市場も反応した。9月4日の韓国株式市場では、半導体大手のサムスン電子とSKハイニックスに加え、SKテレコムやサムスンSDSなどデータセンターやソブリンAI関連銘柄まで大幅に上げた。
米株式市場でも、8月の雇用指標改善を受けて金利が再び上昇し、指数全体が押されるなか、マイクロン、サンディスク、ウエスタンデジタルなどのメモリー株や半導体株、半導体製造装置株、電力株、データセンター株、光通信株といったAIハードウエア関連だけが強く買われた。一方、ハイパースケーラー向けやカスタム半導体の代表格であるブロードコムは相対的に弱かった。なぜか。

エヌビディアのオープンモデル賭け
ハギングフェイスは、開発者がGitHubでコードをやり取りするように、AIモデルをアップロードしたりダウンロードしたりできるオープン型プラットフォームだ。世界の開発者1800万人、企業20万社が、300万件のモデル、50万件のデータセット、100万件のアプリケーションをここで利用している。年換算売上高は約1億5000万ドル(約234億円)とされる。
エヌビディアは、その86倍にあたる129億ドル超を投じてオープンモデルのプラットフォーム企業を買収した。昨年末にエヌビディアがハギングフェイスに5億ドル(約781億円)の出資を提案した際の評価額は70億ドル(約1兆940億円)だった。8カ月でほぼ倍になった計算だ。数字だけ見れば、この投資は理解しにくい。
ただ、産業の生態系を押さえて成長してきたエヌビディアの方程式を踏まえると、今回の動きも腑に落ちる。エヌビディアの真の堀はGPU(画像処理半導体)そのものだけではない。それを動かすCUDAプラットフォームにある。GPUプログラミングには自然とCUDAが使われ、その上に積み上がったソフトウエアや開発慣行が、エヌビディア製ハードウエアからの離脱を難しくしているためだ。

ハギングフェイスは、AIモデルの階層でCUDAに近い役割を担いうる。開発者がどのモデルを選び、どう調整し、どのハードウエアに配備するかという工程の多くが、ハギングフェイス上で進むからだ。エヌビディアは今回の買収で、AIモデル流通の関門を握り、生態系に影響を及ぼす可能性を買ったといえる。
今回の買収は、エヌビディアが長年進めてきた「オープン戦略」とも重なる。ジェンスン・ファン最高経営責任者(CEO)は「オープンウエートモデルはAIへのアクセス機会を広げ、米国の技術主導権を強固にする」と主張してきた。そのうえで「世界には最先端のクローズド型モデルとオープン型モデルの双方が必要だ」と訴えてきた。
エヌビディアは自らニモトロン(Nemotron)をはじめとする高性能のオープンモデルを開発し、データや開発ツールも大規模に公開してきた。最近では開発加速に向け、AIスタートアップのプールサイドからモデル開発技術の利用権を60億ドル(約9370億円)で確保した。ジェンスン・ファン氏は、ハギングフェイス買収後もオープン型を維持し、エヌビディア製チップの利用を強制しないと約束した。
「129億ドルの安い保険」
利他的だからではない。現在、エヌビディア製GPUを最も多く買っているのは、最先端のクローズド型モデル市場を握るオープンAI、アンソロピック、グーグルのような大手AIラボとハイパースケーラーである。これら企業は独自チップを開発し、エヌビディア依存の引き下げに腐心している。エヌビディアにとっても、少数顧客への依存が高すぎれば交渉力は落ちる。
そこで同社はオープン型AIの生態系を押さえ、オープンモデル市場そのものを育てることで、より多くの企業や政府、個人がAIを早く導入するよう促している。ジェンスン・ファン氏は最近の決算発表で「DeepSeekでもKimiでもClaudeでもMistralでも、エヌビディア製チップの導入基盤とCUDA生態系が最も広い。事実上、世界のほぼすべてのオープンモデルがエヌビディア上で開発され、動いている」と話した。
レイモンド・ジェームズは、今回の買収について「カスタムチップ上でワークロードを動かすクローズド型モデル開発企業の増加傾向に備え、エヌビディアがヘッジ手段を確保した」と説明した。バロンズは「買収額は高く見えるが、時価総額5兆ドル(約781兆円)のエヌビディアにとっては安い保険だ」と評した。

オープンモデルの普及は需要曲線そのものも変える。これまでクローズド型モデルのAPIをそのまま使う企業は、「トークン当たりいくら」を払い、クラウドからAIを借りていた。導入は高いコストを負担できる大企業が中心だった。
だが、費用対効果の高いオープンモデルが増えれば、コストの壁に阻まれてAIを使えなかった需要も新たに開く。とりわけデータ主権や安全保障が絡む企業や政府は、オープン型モデルを土台に、自社や自国の領域に特化したAIをオンプレミスや独自インフラに直接構築する。エヌビディアのAIファクトリーシステムへの需要が急増している理由の一つだ。エヌビディアは2028会計年度の売上高成長率について70%という強気の見通しを示し、投資需要はハイパースケーラーだけでなく、ネオクラウド、AIモデル開発会社、ソブリン、エンタープライズ、オンプレミスAIへと多様化していると説明した。
「モデル競争→効率向上→AI価格下落→配備先増加→トークン・エージェント利用量急増→総コンピュート増加→エヌビディア製システム需要増加」という好循環である。どのモデルが勝っても、最終的な勝者はエヌビディアのインフラになる構図をつくる狙いだ。ハギングフェイス買収もその一片にあたる。
10万GPUで鍛えた勝負モデル
最先端のクローズド型陣営によるスピード競争も激しい。オープンAIが同日に公開したGPT-6アストラは、汎用ベンチマークの点数こそ高くないが、日常で重要性が高いエージェントの長期業務能力とトークン効率で驚くべき改善を示した。サムスン証券のイ・ヨンジン研究員は「AGIに普遍的な定義があるわけではないが、エンタープライズ業務のための汎用知能という言葉を最もよく表すモデルだ」と評価した。
アストラは、テキサス州スターゲート・データセンターでエヌビディア製GPUを10万基超稼働させて訓練したという。オープンAIとして過去最大規模である。コンピューティング能力を増やせばAIモデルの性能が高まるという「AIスケーリング則」を、改めて裏付けた。今後さらに多くのコンピュートとメモリー需要を見込ませる材料でもある。
サム・アルトマン最高経営責任者(CEO)は「目標は、あらゆる知能水準で最高のコストパフォーマンスを実現することだ」と述べた。さらに「今後も価格を劇的に下げながら、引き続き莫大な売上高を上げられる」と強調した。知能を安く、豊富にするという宣言は、ジェンスン・ファン氏が費用対効果の高いオープンモデルの普及でめざす方向とも重なる。

これまでAI投資家は、費用対効果の高いオープンモデルの台頭でトークン価格が急速に下がることを巡り、激しい議論を続けてきた。トークン価格の下落速度と、それに伴うトークン消費の増加速度のどちらが速いかで、天文学的なAI投資の収益率が分かれるためだ。
強気派は「安くなればもっと使う」というジェボンズの逆説を根拠に、利用量の増加が上回ると主張する。慎重派は単価下落のスピードの方が速いと疑う。実際、トークン価格を追うシリコンデータ指数は8月に29%下落した。7月以降、AIハードウエアに集中していた需給が緩む過程で、この疑念は売りを一段と強めた。
アストラの登場は、こうした懸念をかなり薄めた。ゴールドマン・サックスは9月4日、「知能の飛躍的な進歩は、より多くのトークンを使いたいという欲求と必要性を改めて呼び起こす」と分析した。トークン価格の下落は、アストラ登場前ほど大きな問題ではなくなったとの判断だ。能力の飛躍が確認されれば、「誰もが追随に動き、支出サイクルが維持され、より良い何かに向けて積み上げる余地がなお十分に残っているという信頼」がよみがえるためだという。
再びジェボンズの逆説に賭けた市場
9月4日の株式市場は、久しぶりにこの信頼を価格に織り込んだ。オープン型でもクローズド型でも、AIの発展と普及の速度が上がるほど、コンピュートとメモリー需要は増えざるを得ない。市場はそう判断し、資金はハードウエア株に集まった。
もっとも、すべてが上昇したわけではない。グーグル、アンソロピック、オープンAIなど向けのカスタムチップ(ASIC)を手がけるブロードコムは相対的に出遅れた。オープンモデルの拡大は、汎用インフラにより有利なゲームだからだ。米ハイパースケーラーのなかで、オープンモデルに最も本腰を入れているメタの株価下落が小さかったのも、同じ文脈で説明できる。
メモリーは、どのモデルであれエージェントの稼働時間が長くなり、文脈が長文化するほど重要性が高まる。このため陣営を問わない恩恵先に挙げられる。エヌビディア、アーム・ホールディングス、AMD、インテルが競うCPUも同様だ。推論需要の急増は、推論特化型チップとクラウドを提供するセレブラスの株価も急騰させた。

AI導入のスピードが速まるほど、オンプレミスインフラ関連株への注目度も高まる。デル、HPE、スーパーマイクロのようなエンタープライズサーバー企業、ネビウス、コアウィーブ、アイレンなどのネオクラウド、そして韓国でソブリンAIやデータセンター関連としてくくられる企業が、オープンモデル普及の恩恵銘柄として挙がる理由である。オープン型でもクローズド型でも、AI利用量が増えるほど供給不足が深刻な電力網やデータセンターを建設する企業――バーティブ、イートン、ブルームエナジー、キャタピラーなど――も強かった。
この日のAIハードウエア独歩高は、これまで離れていた資金が再び集中して生じた一時的な現象である可能性もある。9月特有の不利な季節性や複数のマクロ要因と重なれば、上昇基調はいつでも崩れうる。AIが構築期から普及期に移るにつれ、初期インフラとハードウエアが恩恵を独占していた局面は終わりつつある。AIインフラソフトウエアのような次の段階へ資金が分散し続ける点にも注意が必要だ。性急な一点張りは危うい。
それでも、今回の戻りが示したのは、少なくとも現時点では「AI単価の下落=ハードウエア需要の鈍化」という等式が成り立っていないことだ。知能が安くなるほど新たな需要がより速く生まれるなら、価格下落はAI投資の敵ではなく、次の需要を開く触媒になる。UBSは「AI推論では、ハードウエアのロードマップの焦点がメモリー容量と帯域幅、インターコネクトへ移っている」と強調した。
加えて、金利上昇は将来成長よりも、足元の利益とキャッシュフローが最も強い企業への選好を高めうる。AIハードウエアの反発を、単なるテクニカル要因だけでは説明しにくい理由である。
ビン・ナンセ記者 binthere@hankyung.com
Korea Economic Daily
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