「米政府に逆張りするな」でも長期金利は再上昇 ビットコイン急騰
概要
- 長期国債利回りの上昇とともにドル安、金・ビットコイン急騰が進み、「ディベースメント・トレード」再来の可能性が高まっていると伝えた。
- 財務省のバイバック拡大・トレジャリー・ツイストにもかかわらず、投資家の信認低下を背景にタームプレミアムと長期金利の上昇圧力が続き得ると指摘した。
- 専門家は、米10年債利回りが5%に定着するかどうか、金利急騰のスピード、そして金利上昇の原因次第で、株式・債券・ビットコインなど資産ごとの選別が一段と強まるとみている。
期間別予測トレンドレポート


効果は1日も続かなかった米国債バイバック拡大
ベッセント氏「さらに増やす」「トレジャリー・ツイスト」
「米政府は市場が知らない情報を持つ」
「米政府に逆らうな」という事実上の宣戦布告にもかかわらず、長期金利は再び上昇し、ビットコインは急騰した。債券・資産市場で何が起きているのか。

「市場参加者は考えるべきだ。米政府は市場が知らない何かを知っているのではないか」
長期金利の上昇を抑える役目を担うベッセント米財務長官は8月20日、債券市場に事実上の宣戦布告をした。長期国債のバイバック額を1回あたり20億ドル(約3180億円)から少なくとも40億ドル(約6360億円)へ2倍超に増やすと発表した翌日のことだ。

前日のサプライズのバイバックを受けて7〜10ベーシスポイント(bp)低下した長期金利は、すぐに跳ね返した。流動性の低い米30年債利回りは、発表前の5.28%台から発表後に5.18%まで低下した後、5.25%台を回復した。市場の指標である10年債利回りも4.69%→4.63%→4.71%と、かえって上昇した。
そこで再び前面に立ったのがベッセント氏だ。同氏はCNBCで「1回あたりのバイバック額は40億ドルを上回る可能性がある。我々には大きな政策ツールボックスがある」と語った。さらに、長期金利を抑えるため短期債を増発し、長期債を買い入れる手法を自ら「トレジャリー・ツイスト(Treasury Twist)」と呼び、「こうした措置まで辞さない姿勢を踏まえれば、ベッセント氏は市場が知らない何かを知っているのではないか、と考えるべきだ」と述べた。
要するに、長期金利が上がれば財務省がより大きく直接動くとの意思を、いっそう鮮明にした格好だ。長期国債を売って金利を押し上げる債券市場に対し、「一方向に賭け続ければ大きな痛手を負いかねない」と警告したともいえる。
金利は一段高、金とビットコインも急騰

それでも市場はなお、ベッセント氏の思惑通りには動いていない。発言直後にやや弱含むようにみえた金利はすぐに上昇を再開し、10年債利回りは8月22日に4.736%まで上昇した。業績が確かな一部の大型半導体株やAIハードウエア株を除けば、株式相場も再び上値を抑えられた。
一方、ドルは軟調が続き、金やビットコイン、エネルギー、資源価格は上昇基調を保った。とりわけビットコインは2日で2割近く急騰し、5月以来初めて7万8000ドル(約1240万円)を上回った。
伝統的な市場の教科書では、金利上昇は利子を生まない金やビットコインには逆風とされる。にもかかわらず、金利が上がる局面でドルが下落し、金やビットコインが上昇するのは、今回の金利上昇の性格が従来とは異なることを示すサインだ。
債務危機を継続して警告してきたレイ・ダリオ氏はこの日、「バイバック拡大は米国の財政ストレスが臨界点に近づいているシグナルだ」と指摘した。現在の道筋のままなら3年以内に危機が訪れる可能性があるとも語った。そのうえで、債券の比率を下げ、ポートフォリオの10〜15%を金に振り向け、そこにビットコインを少量加え得ると話した。
昨年ウォール街を揺らした「ディベースメント・トレード(Debasement Trade)」を思い起こさせる動きでもある。巨額債務を抱える政府が財政健全性を損ね、通貨価値を薄めるとの懸念が強まると、資金が法定通貨の外にある価値保存手段へ逃避する取引を指す。こうした空気が広がる局面では、利回りが高くても長期国債への投資を避ける投資家が増え、金利には上昇圧力がかかりやすい。
弱まる米国債の安全プレミアム
最近の金利上昇には複数の要因がある。第1はインフレ懸念だ。イランと米国の交渉が妥結に向かう兆しはなく、国際原油価格もなお高止まりしている。当初市場が見込んでいた物価安定の道筋が揺らぎ、米連邦準備理事会(FRB)が早ければ9月にも利上げに動くのではないかとの不確実性は消えていない。

ベッセント氏は「食品とエネルギーを除くコアインフレは、財とサービスの双方で低下している」と強調した。エネルギー価格上昇の二次波及効果がコアインフレに広がっている兆候は全く見えないとも語った。もっとも、イラン情勢が解決し、物価の低下基調が改めて確認されるまでは、債券市場の疑念は簡単には消えそうにない。
より根本的な問題は財政赤字である。
各国政府は利払い費や国防費、高齢化に伴う社会保障費、各種減税やAI産業政策の財源を賄うため、さらに多くの国債を発行している。政治的に不人気な緊縮策を正面から唱える国はほとんどない。
その負担はそのまま金利上昇につながる。債券投資家は巨額の供給を引き受ける対価として、より高い利回りを求める。将来も供給が増え続けると見込めば、今の時点から国債価格の下落、すなわち金利上昇に賭ける。
マサチューセッツ工科大学(MIT)のリカルド・カバレロ教授は、この変化を「安全プレミアム(safety premium)から吸収プレミアム(absorption premium)への転換」と説明する。かつては米国債が世界で最も安全な資産だという理由だけで、投資家は低い利回りを受け入れていた。いまはあふれる国債を吸収する見返りとして、むしろ優良社債より高い利回りを求めているというわけだ。同教授は2015年以降の米国債利回り上昇2.5ポイントのうち、30%にあたる0.75ポイントがこの要因によるものだと推計した。
この負担は年限が長いほど大きい。今後数十年に及ぶインフレと国債供給の不確実性を引き受ける分だけ、より大きな補償を求めるためだ。短期金利より長期金利の上昇が急なのはそのためである。これは米国だけの話ではない。日本やドイツ、英国でも、長期・超長期国債利回りは数年ぶり、あるいは数十年ぶりの高水準へと急上昇している。

AI投資に向けた企業の記録的な資金調達も、国債利回りを押し上げる構造要因として浮上した。
バークレイズによると、米企業の今年の投資適格社債発行額は1年で32%増え、過去最大の1兆9000億ドル(約302兆円)に達する見通しだ。各国政府が記録的な財政赤字を埋めるため国債を大量発行する一方で、巨大テック企業やハイパースケーラーもAIデータセンター、半導体、電力インフラへの投資資金を借りるため市場に殺到している。

一部の投資家は、もはや米政府よりAI企業を選好し始めている。ダブルライン・キャピタル(DoubleLine Capital)のジェフリー・シャーマン副最高投資責任者(CIO)は「長期国債利回りの上昇は、民間のAI投資と政府財政が債券市場で競合しているためだ」と分析した。「米政府に30年間資金を貸すのか、マイクロソフトに5年間貸すのかという選択肢が生まれ、多くの投資家はマイクロソフトを選ぶだろう」と語り、企業は少なくとも、資金を使えばそれに見合う売上高が生まれると分かっていると付け加えた。
FRBではなく米財務省がツイスト
「米国一の国債セールスマン」であるベッセント氏にとって、この流れを放置するわけにはいかない。7月末に米国が日本政府と歩調を合わせ、円防衛のため外国為替市場への介入に動いたのも同じ文脈だ。日本が円買いに必要なドルを捻出するため米国債を大量に売却し、それが米金利まで押し上げる事態を防ぐ狙いがあった。
今月初めに示された第3四半期の国債発行計画では、今後、長期債の発行を減らす可能性をにじませる表現も見られた。その分、短期債の発行を増やす構えだ。市場に出回る長期債の供給が減れば、長期債価格は上がり、利回りは低下しやすくなる。
ベッセント氏はバイデン政権時代、イエレン前財務長官がこの戦略を用いた際、「短期債への過度な依存はロールオーバー(借り換え)リスクを高める賭けだ」と厳しく批判していた。ところがトランプ政権が発足すると、この戦略を継承した。

今後は短期債の比率をさらに大きく引き上げる可能性もある。この日のインタビューでベッセント氏が自ら言及したトレジャリー・ツイストがそれだ。
トレジャリー・ツイストは、かつてFRBが実施したオペレーション・ツイストの主体を財務省に置き換えた言葉だ。オペレーション・ツイストがFRBによる短期国債圧縮と長期国債買い入れを通じて長期金利の低下を狙う政策だとすれば、トレジャリー・ツイストは財務省が短期債を増発し、その資金で長期債を買い入れる「年限の入れ替え」である。
狙いは同じだ。市場に供給される長期債を減らし、長期金利を抑えて企業投資や住宅市場への負担を和らげることにある。ケビン・ウォーシュFRB議長がバランスシート拡大に慎重ななか、財務省がツイストの主役に乗り出そうとしている構図だ。
バイバックは増やしても、国債発行残高全体に占める比率は2.4%にすぎず、市場への効果は限られる。これに対し、2011〜12年のFRBによるオペレーション・ツイストでは、買い入れ規模が最大19%に達した。財務省単独で同程度の長期債を買い入れるには、発行年限の構成自体を短期債中心へ切り替える必要がある。
エバーコアISI(Evercore ISI)のクリシュナ・グハ副会長は「困難に直面した国はしばしば短期債発行に依存する。我々は米国は他国と違うと考えがちだが、その違いが永遠に続くわけではない」と皮肉を込めて語った。
ベッセント氏の処方箋は成長で債務を薄める
ベッセント氏自身、短期債への依存を無制限に高められないことは十分理解しているはずだ。だからこそ最初に切ったカードが、バイバック拡大と口先介入だった。
だが、こうした「ベッセント・プット」も繰り返されるうちに効き目が薄れている。むしろ金利上昇をあおる副作用すらあり得る。投資家の信認にひびが入り始めているためだ。
ジェフリーズ(Jefferies)のトーマス・サイモンズ米主任エコノミストは、今回のバイバック拡大の発表手法そのものが不適切だったと批判する。わずか2週間前に四半期の発行計画を示した際には何も触れず、その後に不意打ちでバイバック計画を変更したことは、財務省が数十年守ってきた「定期的かつ予見可能(regular and predictable)」という債務管理原則を自ら損なう行為だという。
グハ氏はこれを、米国債のショート投資家を不意打ちで攻撃して損失を与え、一方向への偏りを抑えるための「戦術的ゲリラ作戦」と表現した。ただ、ゲリラ戦を永遠に続けることはできない。金利の急騰を食い止める効果はあっても、「数カ月後の、ファンダメンタルズに沿って決まる金利水準そのものに持続的な影響を与えるのは難しい」と指摘した。

JPモルガン(JPMorgan)のジェイ・バリー金利戦略家も「実質的な財政健全化がなければ、市場はバイバック拡大を信用しない」と警告した。財務省が正攻法を避け、予見可能な原則からさらに離れるなら、タームプレミアムと長期金利は一段と上昇し得ると話した。
もちろん、ベッセント氏もバイバックだけで債務問題を解決できるとは考えていない。トランプ政権発足直後から、同氏は一貫して「成長によって債務負担を乗り切る(grow our way out)」ことが根本的な解決策だと主張してきた。米経済と税収が債務より速く拡大すれば、債務の絶対額が増えても国内総生産(GDP)比の負担は軽くできる、という論理だ。
今回のCNBCとのインタビューでもベッセント氏は「40兆ドル(約6360兆円)の国家債務は、それ自体では大きな意味を持たない数字だ。成長を通じて債務負担から抜け出せる」と強調した。最近の財政赤字拡大は、企業投資を促すため税制優遇を拡充した結果であり、短期的には税収を減らしても、長期的には生産性と課税ベースを押し上げる「将来の成長への投資コスト」だと説明した。国家の豊かさを決めるのは、結局のところ資本の税引き後収益率をどこまで高められるかだというのが同氏の考え方である。
「さらに悪化すれば、結局はFRBが動く」
企業がAIやデータセンター投資のため巨額の社債を発行し、足元では「政府と企業の短期的な資本争奪戦」が起きていることも認めた。ただ、その資金が生産性向上につながれば、経済の供給力を高め、物価を押し下げる「ディスインフレ型の成長」に戻ると主張する。ケビン・ウォーシュFRB議長の見方にも近い。
ベッセント氏は「近くホワイトハウス行政管理予算局と財政健全化策を協議する」と述べ、財政緊縮も並行して進める考えを示した。さらに、「必要なら債券市場の問題を巡ってFRBと協調して動く」とも話した。
市場では、現在の金利上昇が制御できなくなれば、最終的にはFRBが直接介入せざるを得ないとの見方もある。野村証券のクロスアセット戦略家チャーリー・マクエリゴット氏は「バイバック拡大は銃創にばんそうこうを貼ったようなものだ」と語った。インフレと金利上昇が実体経済に深刻な打撃を与える水準に達すれば、結局FRBはイールドカーブ・コントロール(YCC)や直接的な量的緩和(QE)に踏み切る可能性があると主張した。
ベッセント氏「いまはすべてノイズ」
「成長で債務を薄める」というベッセント氏の理屈そのものには整合性がある。問題は市場がその時間軸をどこまで待てるかにある。生産性向上と税収拡大には時間がかかる一方、国債・社債の供給増や利払い費の膨張、インフレ圧力はすでに目の前で進行している。
投資家は、足元の金利上昇が一時的なものなのか、それとも5%金利がニューノーマルになりつつある過程なのかを神経質に見極めている。専門家は、まだ国債市場の構造的亀裂を論じる段階ではないとみる。シャーマン副CIOは、米10年債利回りが5%を突破し、その水準に定着するかどうか、さらにイールドカーブ全体が上昇するかをまず見極める必要があるとみている。
絶対水準と同じくらい、上昇のスピードも重要だ。米経済の成長が続くなかで金利が秩序立って上昇するなら、資産価格も時間をかけて高金利に適応できる。反対に短期間で急騰すれば、株式や社債など他資産の同時デレバレッジを引き起こしかねない。
金利上昇の原因を見極めることも欠かせない。高金利が定着するほど、株式市場では漠然とした成長期待より、実際の生産性とキャッシュフローを証明できる企業への選別が強まる可能性がある。さらに、政府債務や通貨価値への不信が金利を押し上げているなら、金やビットコイン、資源のようなドルの外にある価値保存手段へ資金が集まるディベースメント・トレードも一段と強まり得る。
ベッセント氏は「8月で市場参加者は手持ち無沙汰になっており、相場が早とちりして反応している」と語った。バイバック拡大と口先介入にもかかわらず、金利が1日で持ち直したことについても「単なるノイズにすぎない」と一蹴した。さらに8月24日の記者会見では、イランに経済的圧力をかけ得る、市場の知らない「非対称な情報」を示して会見すると明らかにした。
まもなく売買が本格化する9月を迎える。市場が5%に向けてなお賭けを続けるのか、それともベッセント氏の「大きなツールボックス」がその勢いをそぐのかが次の試金石になる。
ビン・ナンセ記者 binthere@hankyung.com
Korea Economic Daily
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